金澤 知宜 稿「わが国投資信託の租税条約適用に関する一考察―ARFP参加に伴う観点を中心に―」

金澤 知宜 稿 (立命館大学大学院 院生)
「わが国投資信託の租税条約適用に関する一考察―ARFP参加に伴う観点を中心に―」

 本論文は,投資信託に対する所得課税につき,国内法及び租税条約上の問題点を整理した上で,日本のARFP参加により将来生じうる投資信託への国外投資家の増加の状況を見据え,オーストラリアと同様に国内投資家のみならず国外投資家についても間接投資が直接投資よりも不利に扱われないようにすることが望ましく,かつ理論的にも可能であることを示している。

 第1章では日本の投資信託の現状を概観し,代行アプローチではARFP参加に伴う将来における国外投資者の増加の状況に対応できないこと,会社型投資信託が租税条約上「受益者」として扱われるか明確ではないこと,及び,treaty shopping対策の結果投資信託が租税条約上の特典を享受できないことにより日本のパスポートファンドに対するアジア地域の国外投資家の投資が阻害されることなどが示されている。第2章では,OECDによる投資ファンドに対する租税条約適用をめぐる議論を総括し,第3章では,ARFP参加国の一つであるオーストラリアのManaged Investment Trustに係る税制及び租税条約上の問題を総括している。そして,第4章では,直接投資と投資信託と通じた間接投資の中立性及び投資信託における国内投資家と国外投資家の中立性を図るため,複数のアプローチ(比例アプローチ,代行アプローチ等)を案件ごとに採用すべきであると主張している。

 我が国の投資信託税制は,それが契約型か会社型か,公募か私募か,契約型はさらに集団投資信託か特定投資信託かで,細かく類型化されて異なっており複雑であるが,加えて,経済のグローバル化,特に2015年9月のARFP参加により,購入者が国外居住者であるケースが今後増えれば,国際税制問題としての性質も帯びる。そのような場合,投資家,CIV(投資信託組成者),投資運用先が別々の国であれば,それらの国の間での租税条約の有無やその中身,Treaty Shoppingの懸念や対応策等が問題になる。こうした煩雑で難しい,新しい問題に果敢にチャレンジしている点をまずは評価したい。本論文は,そのテーマもARFP参加の影響を考慮するという点において時宜に適っており,かつ,従来の研究が僅少である分野に新たな視点を提供する優れた学術論文であるといえる。また,公募型投資信託の租税条約適用関係に関して,OECDで議論されてきた様々なケースを,文献を参考にしつつも丹念に整理し,わかりやすく図解している(第2章)点には努力の跡がうかがえる。さらに,第3章におけるオーストラリアの議論も原典に依拠して正確かつ適切に紹介している。第4章「我が国への示唆」では,筆者自身の見解を論理的かつ明確に展開しており,とても説得力があると思われる。最後に,学術論文の形式に特段の問題点が認められない上に,論文としての適度な長さを保っており,冗長さがなく読者もスムースに筆者の論旨を追うことができる。

 以上のことを総合すれば,本論文は租税資料館奨励賞を授与する為の基準は十分に満たしていると評価することができる。

論 文(PDF)