五味 悠 稿「法人税法における高額譲受取引の解釈―東京地裁令和元年10月18日判決を題材として―」

五味 悠 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「法人税法における高額譲受取引の解釈―東京地裁令和元年10月18日判決を題材として―」

 本論文は、法人税法には無償譲渡や低額譲渡については22条の無償取引規定の定めがあるのに対して、高額譲受取引については法人税法上明文規定がないことから、法人税法における高額譲受取引の解釈について論じたものである。

 第1章では、高額譲受取引についての法解釈が争われた東京地裁令和元年10月18日判決を取り上げ、本判決では高額譲受取引について、実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、法人税法上寄附金に該当すると判断しつつも、法37条7項若しくは同条8項のいずれを適用したのかが明確にされていないことを問題点として指摘している。
 第2章では、高額譲受取引に関するこれまでの裁判例を適用規定ごとに整理すると、法37条の寄附金規定が適用される場合と、法132条の同族会社の行為計算否認規定が適用される場合があることから、高額譲受取引に係る法人税法上の解釈を、①7項実質適用説、②7項混合適用説、③8項同種効果適用説、④8項同一取引適用説、⑤法132条優先適用説、の5つに分類している。
 第3章では、法37条の寄附金課税制度について整理し、法37条8項は同条7項の確認規定もしくは補完的規定と解することが妥当であり、法37条8項は低額譲渡取引の取扱いのみを規定しており、高額譲受取引については射程範囲外であると主張している。
 第4章では、7項混合適用説は、高額譲受取引を有償取引と無償取引の混合取引とみなし、「資産の無償譲渡」の存在があると解していることから、高額譲受取引における法22条2項の適用の有無を検討し、同項が適用される場合とされない場合で課税所得に影響はないことから、同項の適用はないと解することが妥当であるとしている。第5章では、これまでの検討を踏まえ、高額譲受取引に関する5つの法解釈のうち、7項実質適用説を最も妥当なものと結論づけている。

 以上のように、本論文は、法人税法上明文規定のない高額譲受取引についての法解釈をめぐる問題を論じたものである。やや限定されたテーマではあるが、数多くの論文・評釈や判例を用いてきわめて詳細に論じており、租税資料館奨励賞に相応しい論文であると評価することができよう。  

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