小林 均 稿「移転価格税制における費用分担契約の研究―無形資産取引の検討を中心として―」

小林 均 稿 (千葉商科大学大学院 院生)
「移転価格税制における費用分担契約の研究―無形資産取引の検討を中心として―」

 本論文は、はじめに研究の目的・範囲、先行研究及び研究方法を簡潔にかつ要領よく示した上で、無形資産に係る移転価格税制における費用分担契約の適用可能性について包括的に検討しようとするものである。

 本論文の構成は、序章、第1章「無形資産に係る移転価格税制」、第2章「無形資産取引の移転価格税制上の課題」、第3章「費用分担契約の導入の考察」、第4章「無形資産開発への費用分担契約の適用」、「結論」となっているが、内容を大掴みにまとめると、費用分担契約が法制化されていない我が国の現状に鑑み、無形資産に係る移転価格税制の課題をいわば「原点」に立ち返って、無形資産の意義、無形資産に係る法的所有権と経済的所有権との区別や経済的便益の帰属、無形資産取引に係る移転価格課税の課題等から説き起こし、そこから、費用分担契約の導入の意義とりわけ独立企業間価格算定方法としての優位性を明らかにした上で、費用分担契約を実際に導入する場合の条件づけについて検討し、さらには、昨今のデジタル課税の議論をも視野に入れて費用分担契約のアップデートを行うものであり、全体の論調としては、費用分担契約の適用を推進する立場を示している。

 本論文は、税制の中でも特に複雑な移転価格税制、その中でも昨今理論上も執行上も議論が集中している無形資産に係る移転価格税制について、我が国では適用事例がなお少なく、しかも研究の蓄積も少ない費用分担契約に焦点を絞って検討しているが、そのようないわば「難題」を扱っているにもかかわらず、その論旨は明快で個々の分析も非常に丁寧に整然と行われている。このことは「製造業に勤務する筆者の実務経験」(61頁)に基づく明確な問題意識が研究のベースにあるからではないかと推察される。「まず成果を実施する当事者が定めたうえで権利帰属を取り決め、次にその権利帰属の割合に応じた費用を各当事者が負担することが多い。また、当事者が成果を共有する場合は、費用は折半し、又は各当事者が自己の分担の開発作業で出捐した費用を負担するというケースが殆どである。」(61頁)等の実務経験をベースにして、我が国の現行税制や先行研究を踏まえOECDガイドラインの議論やアメリカの判例等の検討を通じて考察を進める研究方法は、実務経験のない研究者ではなかなか採用し難いものであり、「実務と研究の架橋」の観点から高く評価される。

 また、先行研究を単にリストアップするだけでなく本論文との関連性を明確にして参照している点からも、研究に対する筆者の真摯な姿勢が窺われる。
さらに、費用分担契約については事務運営要領が本年改正されたことからしても、実務上の重要性に関する認識は高まってきており、今後さらに研究の深化が期待される分野において貢献性も認められる。

論 文(PDF)

2022年11月29日 下記二か所に追加修正を行いました。

①本文4ページ 6行目
誤:千葉商大論叢 第56巻 第2号(2008年11月)
正:千葉商大論叢 第56巻 第2号(2018年11月)

②参考文献リスト
【書籍】に2.として
EY税理士法人『無形資産の管理と移転価格算定の税務』(中央経済社、2019年)
を追加し、以降の項数を繰り下げ。