滝川 茜 稿「令和2年度所得税法改正におけるひとり親控除創設の評価と考察」

滝川 茜 稿 (専修大学大学院 院生)
「令和2年度所得税法改正におけるひとり親控除創設の評価と考察」

 令和2年度の税制改正において、所得税法の人的控除制度に「ひとり親控除」が創設された。本稿は、前身となる寡婦(夫)控除で長らく議論されてきた問題点とその解消について、人権救済問題としての取り組み、政治的社会的背景なども考察し、具体的な事例やデータを用いて評価している。また、制度趣旨である「子どもの貧困に対応する」公的扶助としての機能について、養育費やひとり親の就労という観点から評価・検証している。

 本稿は全5章で構成されている。まず、第1章において、ひとり親控除を評価・検証する上で前提となる日本の所得税の沿革と仕組み、人的控除制度の特徴と沿革について確認している。次いで第2章では、ひとり親控除の前身である寡婦控除の創設から、その適用範囲を単身の死別寡婦、男性の寡夫へと拡大し、ひとり親控除の創設に至る沿革を確認している。第3章では、寡婦(夫)控除が抱えていた、婚姻歴の有無による不公平と、男性のひとり親と女性のひとり親への適用の不公平という課題が、ひとり親控除の創設により解消されたことを評価するとともに、寡婦控除存続の理由と意義について考察している。第4章では、ひとり親控除の持つ公的扶助としての機能を、ひとり親世帯の養育費と就労の観点から評価している。第5章では、わが国における事実婚の歴史、税法と社会保障法での取扱いの違い、事実婚世帯がひとり親控除の適用対象外となった経緯を確認している。

 結論として、筆者は、長い間とり残されてきた非婚のひとり親への適用が実現したことを高く評価するとともに、伝統的な家族観を中心に制度設計されてきた寡婦控除が、時代の変化により、子どもの貧困問題への対応へと変わったことを本論文により確認できたとする一方、事実婚世帯をひとり親控除の対象外としたことで、同じ所得控除にあって、他の人的控除と「生計を一にする」範囲の解釈が異なることになった点については、今後の課題として議論を深めていく必要があると指摘している。

 筆者は、①非婚のひとり親への所得控除の創設は、出自によらず全ての子供が平等に養育されるために、最も経済力の弱い非婚のひとり親に救済範囲を拡充するものとして有効であり、さらに②ひとり親世帯への公的扶助としての機能をも有する点で高く評価されるとの結論を導いている。

 本稿は、新しい制度の導入について、導入目的とこれにより達成される効果との整合性を検証し、その有効性について評価するという独自の視点に基づく研究として高く評価される。法の解釈適用に関する分析を行うものではないが、法改正の社会的意義を分析している、いわば法社会学的な租税法研究として希少性も認められる。租税資料館奨励賞の受賞にふさわしいものといえよう。

論 文(PDF)