野間田 陽平 稿「ユニットの性質からみる在任継続インセンティブ報酬の退職所得該当性―5年退職金事件の退職基因要件を起点として―」

野間田 陽平 稿 (大阪経済大学大学院 院生)
「ユニットの性質からみる在任継続インセンティブ報酬の退職所得該当性―5年退職金事件の退職基因要件を起点として―」

 本論文は、在任継続インセンティブ報酬としてのリストリクテッド・ストック・ユニット(RSU)の退職所得該当性について、退職基因要件に焦点を絞って考察したものである。

 第1章では、RSUにおいて事前に付与されるユニットは、権利確定時まで株式は交付されず、コール・オプション類似の性質を有するのは権利確定時であり、付与時点では経済的価値はないとしている。また、退職慰労金が短期間で支払われる場合もあることから、その代替として退職時に支払われるインセンティブ報酬が短期間の権利確定条件であっても、退職慰労金が担っていた退職後の生活保障という同質性を認めることが可能であるとしている。第2章では、給与所得である賞与と退職所得を区別する基準は、在職中に支払うか、退職時に支払うかの違いであることから、退職時に確定し支払われるインセンティブ報酬は退職所得としての性質を有するものとしている。さらに、RSUは退職時点で初めて経済的価値を有するものを取得したのであるから、退職基因要件である「退職すなわち勤務関係の終了という事実によってはじめて給付されること」に合致するとしている。

 第3章では、インセンティブ報酬の退職基因要件が否認された事例の検討から、退職基因要件を満たすようにRSUを設計することを試みている。すなわち、退職所得は、退職と支給との因果関係により画される所得区分であるから、退職時点で経済的利益を確定的に取得し、退職の場合には、付与から退職時までの期間に対応する分を経済的利益として支給し、在職か退職かで得る経済的利益に差を付けるよう設計すれば良いとしている。第4章では、付与されたユニットとそこから生ずる経済的利益は別物であり、退職に基因して権利が確定し、価値あるものが初めて給付されるのであるから、RSUは退職基因要件を満たしていること、また、「所得の実現」の観点からも、付与時ではなく、退職時に初めて実現することから、RSUは退職所得に該当すると結論づけている。

 本論文は、近年多くの企業で導入が図られている報酬制度の税務上の問題を取り上げた時宜に適った意欲的な論文であり、租税資料館奨励賞に相応しい論文であると評価することができよう。

論 文(PDF)