平野 潔範 稿「同族会社等の行為計算否認規定における理由の差替え―納税者の主張立証との関係において―」

平野 潔範 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「同族会社等の行為計算否認規定における理由の差替え―納税者の主張立証との関係において―」

 本論文は、同族会社等の行為計算否認規定(以下、「行為計算否認規定」とする)における理由の差し替えについて考察している。国による理由の差し替えが、納税者の主張立証に与える不利益を考えると、認めるべきではないとしている。

 筆者は結論として次のようにまとめている。
 訴訟の審理の段階で、行為計算否認規定の理由の差し替えがなされれば、納税者の立証責任は、その審理の段階で強制的に変更され、申告での理由付記制度の争点明確化機能が失われ、課税処分取消訴訟が持つ納税者の権利救済機能が弱まることになる。一方、所轄税務署長にのみ、行為計算の否認規定の適用が付託されていることからすれば、その適用には十分な検討がなされるべきであるとしている。

 筆者は理由の差替えを4つの類型にして①行為計算否認規定から個別規定、②個別規定から行為計算否認規定、③行為計算否認規定から組織再編成に係る行為計算の否認規定、④組織再編成に係る行為計算の否認規定から行為計算否認規定を解説している。③、④については実例がないが、③についてはユニバーサルミュージック事件で行為計算否認規定から組織再編の行為計算否認の規定に差し替えられと仮定して言及している。①についてはオーブンシャホールディングス事件が(税務処理で納税者の増資、課税処分で所轄税務署長が行為計算の否認規定で否認、取消訴訟で国が無償譲渡に差し替え)考察され。本論文で検討すべき中心的なものといえる②については個別規定から行為計算否認規定が該当し、横浜地裁平成22年3月24日判決(税務処理で納税者が交際費で損金算入、課税処分で所轄税務署長が役員賞与で否認、取消訴訟で国が行為計算の否認規定で差替え)が考察されている。

筆者は行為計算否認規定と理由の差替えという2つの論点を組み合わせることで、納税者の立証責任に与える不利益は、より明確になると考え、この点に着目して研究に取り組んだものであり、筆者の問題意識は明確であり、先行研究や裁判例にも十分目を通し、それらを筆者の結論に導く上で、十分な関連性が見られ、申し分ない。よって、租税資料館奨励賞を授与するに値する論文と位置づけられる。

論 文(PDF)