藤野 荘子 稿「租税法における信義則適用の判断基準及び法整備の必要性―最近の判例を中心に―」

藤野 荘子 稿 (明治大学専門職大学院 院生)
「租税法における信義則適用の判断基準及び法整備の必要性―最近の判例を中心に―」

 租税法における信義則適用は、合法性の原則との関係から適用されるハードルが高くなるのは当然であるが、租税行政庁から誤った指導があった場合に善良な納税者が救済されるべきであることから、信義則の適用要件については、厳格でありつつも適用可能であることが必要である。このような問題意識から、本論文は、租税法における信義則適用の具体的な判断基準を明確にすること及び信義則が適用される法整備について検討したものである。

 第1章では、租税法における信義則適用でいう信頼保護とは、租税行政庁と納税者の信頼関係の維持であること、さらに、租税法における信義則適用のリーディングケースとなった2つの判例を取り上げ、租税法においても解釈論上は信義則が適用されることを確認している。第2章では、租税法における信義則適用に関する学説上の分類として、適用肯定説、比較衡量説、損害賠償救済説、適用否定説を取り上げ検討し、比較衡量説が学説や判例において有力であるが、比較衡量説の立場をとる判例でも、判断基準についてはさまざまな見解があり、明確な判断基準は確立していないと述べている。第3章では、昭和62年最高裁判決で示された信義則適用要件について、学説や判例を用いて考察している。
 第4章では、税務相談(口頭)、免税等通知書、申告是認通知、事前照会制度、通達(公開)等の具体的な行政作用ごとに、信義則が適用されるかどうかについて検討している。第5章では、租税法において信義則が適用されない状況について、直近の判例をもとに検討している。航空機リース匿名組合事件については、信義則適用の可能性が高かったのではと指摘するとともに、ストック・オプション事件については、租税行政の適正な運営に関して論じている。第6章では、信義則適用要件の問題点を改めて指摘し、法整備の必要性を強調している。

 以上のように、本論文は、多くの文献に基づき丹念に考察し、興味深い提言に結びつけており、租税資料館奨励賞に相応しい論文であると評価することができよう。

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