古澤 義之 稿「経済のデジタル化に伴うPE課税の問題点と売上高に着目したネクサスによる課税の可能性―2021年にOECD加盟国等の間で合意されたデジタル課税との比較から―」

古澤 義之 稿 (関東学院大学大学院 院生)
「経済のデジタル化に伴うPE課税の問題点と売上高に着目したネクサスによる課税の可能性

 ―2021年にOECD加盟国等の間で合意されたデジタル課税との比較から―」

 本論文は、伝統的なPE課税にかわり、売上高に着目したネクサス課税の可能性を考察した論文である。第1章でインターネットを活用した新しいビジネスモデルに対する伝統的PE課税の限界について述べた後、第2章で、わが国のPE課税としてなされた平成30年度税制改正の前後の比較を行う。第3章では、非居住者が行うインターネット取引において日本国内に設けた倉庫等がPEに該当するかを争った判例の研究を、第4章では、米国における州法人所得税、州売上税・使用税におけるネクサス概念に関する判例の研究を行っている。第5章では、暫定的対応として、各国で出ている、独自にデジタルサービス税を課す動きについて検討し、第6章で、2021年に合意されたOECD加盟国等の新しい国際課税ルールを、ネクサスに基づく課税と比較考察している。

 多国籍企業に対する課税権配分基準に用いられてきた伝統的なPE概念は、物理的拠点の有無により構成されるため、インターネットを介したビジネスモデルでは十分に機能しない。「PEなければ課税なし」が今日のデジタル経済の進展下において現実妥当性を失っているのである。つまり、PE概念に基づくと、巨額の収益をあげているGAFAなどの巨大IT企業に対し、市場国は一切課税ができないことになり、不合理である。そこでPE課税に代わる新たな概念が求められている。

 本論文はそれを踏まえて、米国の州際課税において用いられてきたネクサス課税の判例の歴史的展開を、米国憲法の条文との関係を踏まえつつ、具にフォローし(第4章)、その観点から、2021年のOECD合意のメリット、デメリットを評価する(第6章)。課税根拠として、市場国での一定額以上の売上高に着目し、これまで十分な課税を行えなかった巨大IT企業への課税の途を開いたことを善としつつも、みなし通常利益率10%を課税要件としたことで、それを下回るAmazonなどが漏れることになり、その意義は大きく損なわれたなどと主張する。

 本論文が取り上げているのは、まさにタイムリーなデジタル課税についての問題であり、国際課税分野の最新・最先端のテーマである。解決を模索するにあたり、米国の州間のネクサスに関する議論に着想を得て、豊富な判例や学説を精緻に分析していることは評価に値する。また、一部の州で導入されている「要素ネクサス基準」から、一定額の売上をベースに課税権を認めるとする提言を導き出している点は独創的である。但しこの提言は、従来の国際課税におけるネクサス理論を大きく変更するものであるにもかかわらず、やや論拠が弱い感がある。

 第6章で展開するOECD合意についての論考も、合意が昨年のことであることから定まった評価がないにも関わらず、それに果敢に挑む意欲も評価できる。筆者の主張も、論理的で説得力を持っている。
 ただ、第3章の位置づけがわからない、第5章は2節構成であるにも関わらず、第2節が「小括」なのはおかしいなどの問題もあるが、全体の評価を大きく貶めるものではない。以上から、租税資料館奨励賞の受賞に相応しいと判断した。

論 文(PDF)