山川 大輔 稿「完全支配関係にあるグループ企業の実質的一体性に関する考察―適格合併における繰越欠損金の引継要件を中心に―」

山川 大輔 稿 (明治大学専門職大学院 院生)
「完全支配関係にあるグループ企業の実質的一体性に関する考察―適格合併における繰越欠損金の引継要件を中心に―」

 本論文は、組織再編税制における繰越欠損金の引継ぎ要件に関し、特に完全支配関係にあるグループ企業のケースに焦点をあて、そのあり方につき考察を加えたものである。

 論文は6章から構成されている。第1章では、組織再編税制の概要として、現行の組織再編税制の誕生の経緯とその後の主要な改正事項の紹介があり、わが国の組織再編税制は「グループ」に着目したものであり、従って繰越欠損金の取扱いについてもグループの一体性を考慮した制度とすべきとしている。

 第2章では、会社法及び企業グループ税制における企業グループの一体性及び事業の継続性について考え方の検討がなされている。即ち、会社法における支配とは責任との一致を意味し、それがグループの一体性を裏付けるものである一方で、事業の継続とは事業単位の移転を前提にしたものであり、グループの一体性の確保を意味する「支配の継続性」を「事業の継続性」と明確に区分し整理すべきとしている。

 第3章では、合併における繰越欠損金の取扱いにつき、それが引継の対象となる理論的な根拠につき考察を加えている。著者によれば、組織再編税制における適格要件と欠損金引継ぎ要件は別物であり、また適格合併において法人格の継続や支配継続がないときでも事業継続をもって繰越欠損金の引継ぎが認められることから、繰越欠損金引継ぎ要件においては事業の継続性がより重視しされているとしている。ただ、一方で著者の立場として事業の継続性の判断に当たっては事業遂行主体としてのグループの一体性を考慮する必要があることも強調している。第4章では、繰越欠損金の引継ぎを巡る裁判例につき、組織再編税制の導入以前のものと、導入以後のものとに分けて検討している。そして導入以前は繰越欠損を引き継ぐ根拠は法主体の同一性を根拠にしていたが、導入後は事業の継続性をより明確に求めることになったとしている。ただ、事業の継続性の検証において一体となった企業グループを事業遂行主体と捉える考え方には至っていないとしている。

 第5章では諸外国における繰越欠損金の引継ぎについての検討がなされ、アメリカ、イギリスでは事業損失をキャピタルロスと区分し事業と紐づいた部分につき欠損金を引き継ぐこと、またドイツでも事業継続性が引き継ぎにあたり考慮されているとしている。

 結論となる第6章では、グループの一体性という視座と繰越欠損金の引継は従来の組織再編税制の適格要件からは独立した要件とすべしという立場を根拠として、グループの一体性を十分に考慮した「事業遂行主体の継続性」と「事業の継続性」を引き継ぐこととする制度設計の必要性を提言している。

 この論文はわが国の組織再編税制の根拠となる「支配の継続性」あるいは「事業の継続性」の意味内容、さらには組織再編税制における適格要件・欠損金引継ぎ要件の本質について、関連する学説・判例さらには海外の制度を検証することで明らかにしてくれている。

 複雑な同税制の基本的な考え方を、改めて整理したことに加え、先行研究等についての丁寧な検証をベースにして、グループの一体性を考慮した「事業遂行主体の継続性」と「事業の継続性」に基づく欠損金の引継ぎ要件を構築すべしという著者独自の立場を打ち出している点も高く評価してよいのではないか。 

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