村田 千紘 稿「多様化した生命保険契約に対する所得課税方法―一時所得における営利性の解釈及び変額保険の性質を素材として―」

村田 千紘 稿 (兵庫県立大学大学院 院生)
「多様化した生命保険契約に対する所得課税方法―一時所得における営利性の解釈及び変額保険の性質を素材として―」

 本論文は,生命保険契約に対する所得課税の構造が,保障機能を重視する定額保険を前提に構築されていると分析した上で,1986年以降に貯蓄機能が高い変額保険が導入されて以降,生命保険契約が多様化している状況を踏まえて,生命保険契約に対する所得課税のあり方を検討するものである。本論文は,生命保険契約の本来的な性質に着目をし,金融類似商品の判定対象となる生命保険契約を分類整理することで,所得課税のあり方について検討を加える構成となっている。

 まず第1章では,生命保険契約の種類・構造・沿革について素描する。第2章では,生命保険契約に対する現行所得税法の取扱い(一時金か年金払いかという生命保険金の受取方法による所得区分)を確認する。第3章では,変額保険の定額保険との性質の差異について保険法の議論を参照しつつ検討を加えている。第4章では,一時所得における営利性概念の解釈と判例・裁判例における判断枠組みについて検討を加えることで,変額保険の貯蓄機能はリスクテイキングの対価を含むとした上で,「営利を目的とする行為から生じた所得」といえるため,一時所得ではなく雑所得に分類すべきとの主張を展開する。この主張を支える論拠として,最高裁平成27年3月10日刑集69巻2号434頁(馬券の払戻金に係る所得が,一時所得ではなく雑所得である旨を判示した判決)における「一体の経済活動の実態を有する」か否かによって,一時所得か雑所得かを区分する判断枠組みや,他の当たり馬券への課税に関する判例・裁判例の判断枠組みを提示している。第5章では,上記の分析を踏まえて,生命保険契約に対する所得課税における所得区分の判断に際して,満期保険金,解約返戻金,死亡保険金について,各論的考察を展開する。

 本論文は,貯蓄機能が高い各種の変額保険への所得課税について,(1)保険契約締結時,(2)保険契約期間中,(3)保険金給付時の各時点に応じて「営利性」を有するか否かという観点から検討を加える。所得税法だけでなく,所得課税の前提となる保険法を中心とした私法分野の議論及び保険契約の機能的分析に積極的に取り組んでいる点も本論文の特徴といえる。

論 文(PDF)