山口 達也 稿「組合員たる地位の譲渡にかかる課税問題」

山口 達也 稿 (立命館大学大学院 院生)
「組合員たる地位の譲渡にかかる課税問題」

 全4章で構成される本論文は、税制が未整備であるわが国の組合課税の分野において、組合員たる地位の譲渡に関する課税上の取扱いに関し、民法上の取扱い及び米国税制を考察し、立法提案に結び付ける論文である。第1章では、民法における任意組合の取扱いおよびわが国の現行の組合課税制度を概観し、特に、組合員たる地位の譲渡についての課税関係が不明確である現状を確認している。第2章では、平成28年3月7日裁決と塩野義製薬事件を取り上げ、問題の所在を具体例で明らかにしている。第3章では、米国のパートナーシップ課税制度を概観し、第4章では、わが国の組合員たる地位の譲渡への課税のあり方について方向性を示している。

 米国では古くよりパートナーシップという事業形態が広く使われてきたが、経済のグローバル化が進み、外国人が日本で事業を営むことが今後増えて来る中、任意組合を利用することも増えて来るものと思われる。その意味で、本論文が、任意組合に関する我が国の法制度が未整備であること、ことのほか、組合員の地位譲渡がどのような課税関係を生み出すのかが不明確であることは、納税者の予見可能性確保、課税上のトラブル回避という点で問題である。これを指摘した着眼点をまずは評価する。

 民法上の地位の譲渡に関する2つの見解(①個々の財産の持分の譲渡とする考え方、②法人の株式と同様に取り扱う考え方)と、米国のパートナーシップ税制における「集合アプローチ」と「実体アプローチ」の基本的な類似性を明らかにした上で、米国パートナーシップ税制の取扱いの内容から、我が国の立法論への示唆を導いており、比較法研究の手法として基本に忠実と言える。また、「集合アプローチ」と「実体アプローチ」のいずれか一方のみを採用した場合の課税上の問題点やその解決方法についても考察しており、バランスの取れた内容となっている。「集合アプローチ」と「実体アプローチ」の2つの座標軸で組合員の地位の譲渡に関する解釈論と立法論を分けて論述しており、論文構成としても適切と言える。

 米国の法制度を、いくつもの原資料にあたって、丹念に調べて整理した結果は、有益情報に富んでいると言えよう。不必要に長い引用がなく、また、誤字脱字も殆ど見当たらない。
 ただ、組合課税の分野では、その他にも、設立時の現物出資、各組合員の所得計算、損益配分割合、組合員と組合間の取引等、課税上の取扱いが未整備で必ずしも明確でない。また、書き方の問題として、章、節(例:4-1)、項(例:4-1-2)の下でもさらに区分けをした方がよいところでされていないため、読みにくいと感じる部分が数か所あった。
 しかし、こうした点を考慮しても、租税資料館奨励賞受賞の水準に達していると判断した。

論 文(PDF)