桐島 章嘉 稿「組織再編税制における非按分型会社分割の適格該当性―権利移転内容の変化を切口として―」
桐島 章嘉 稿 (大阪経済大学大学院 院生)
「組織再編税制における非按分型会社分割の適格該当性―権利移転内容の変化を切口として―」
本論文は、平成27年度税制改正で導入されたスピンオフ税制の適用事例がほとんどなかったが令和5年度税制改正大綱でパーシャルスピンオフ税制の創設が見込まれるというような状況[評者注:同税制は令和5年度税制改正によって創設済である。]の下で、スピンオフ税制の適用を阻害する要因は何かという問題意識に基づき、法人間の権利移転内容の変化を切口として、法人レベルの課税繰延理論を中心に、非按分型分割型分割の適格該当性を検討するものである。参考文献の頁を除き109頁にも及ぶ大部の論文であるが、簡単に概観しておくと、第1章では、商法・会社法における会社分割法制の外延をみながら会社分割の権利移転内容の変化を考察し、第2章では、スピンオフ税制の適格要件について組織再編税制の課税繰延理論の基礎である「支配の継続性」、「事業の継続性」及び「投資の継続性」の関係を検討し、その結果「事業の継続性」の重要性の拡大を確認し、加えて会社分割における移転資産の恣意的選考による濫用行為に関してヤフー事件最判の検討を通じて課税繰延法理の議論を深め、第3章では、その議論を基礎にしてIDCF事件最判及びTPR事件東京高判を検討し「事業の継続性」が高い重要性を示していることを確認し、第4章では、米国税制における会社分割の課税繰延理論を原典に当たりながら詳細に検討している。
本論文について特筆すべき点は、主として、①明確な問題意識と構想の下で緻密かつ明快な論旨を論理一貫して展開していること、②税法だけでなく会社法等についても幅広く叙述し検討していること、③組織再編税制の基礎理論・解釈論・政策論にわたり説得力ある考え方を述べていること、④脚注の数が575にも上ることにも表れているように先行研究を十分にリサーチし読み込んでいること、にあると考えられる。これらの点を総合すると、本論文が組織再編税制に関する租税法学の研究論文として高い水準にある論文であることに異論はない。
もっとも、委員会では、社会科学一般に共通する、優れた論文構成・執筆のスタンダードに照らして、本論文の著者が今後留意することが望まれる点として、次のような点が指摘された。㋐論文で用いる重要概念について定義ないし説明を丁寧かつ十分に行うこと(読者の間に組織再編税制に関する理解度・精通度の差異があることを踏まえた指摘)、㋑論文で取り上げる主たる問題・論点を先ず端的に提示すること(現行制度の端的な説明からではなく沿革の描写から始まっていることに対する、社会科学のスタンダードな観点からの指摘)、㋒論文が読者に伝えたいこと(論文の主張)にインパクトを持たせること(論文の主張が多過ぎ必ずしも明確に整理されていないことを踏まえた指摘)、㋓「節立て」、「項立て」、さらには「読点の振り方」にもっと意を用いること(㋒とも関連するが論文を読みやすくするための指摘)などである。これらの指摘は、著者の今後の研究の発展に対する期待の大きさの表れであると理解してもらいたい。