国岡 大輔 稿「同族会社の関連経費に対する行為計算否認規定(所税157条1項)の適用に関する一考察―必要経費の通則規定(所税37条1項)との関係を中心に―」

国岡 大輔 稿 (香川大学大学院 院生)
「同族会社の関連経費に対する行為計算否認規定(所税157条1項)の適用に関する一考察―必要経費の通則規定(所税37条1項)との関係を中心に―」

 本論文は、個人事業者が支出した同族会社の関連経費について、所得税法上の必要経費該当性が争われる場面において、所得税法157条1項と同法37条1項の適用が競合した場合、どちらの規定を根拠とすべきか、課税庁の恣意的介入を極力排除するために、どのような場面であれば、課税庁による所得税法157条の適用が許容されるのかを明らかにすることを目的としている。

 本論文は全5章で構成されている。第1章は、租税回避行為と同族会社の行為計算否認規定の意義及び問題点、第2章は、所得税法157条1項と同法37条1項の沿革と、課税庁が否認をする場合の論理構成の違いを、第3章では、両規定の法的効果の違いをそれぞれ検討している。第4章は、考察の結果として、課税庁が否認する際に、所得税法157条と同法37条のどちらの規定によるべきかの判断順序を示す筆者作成の「判定フロー」を仮説として提示し、第5章において、当該「判定フロー」を実際の裁判例等に当てはめて検証している。

 法人税法における同族会社の行為計算否認規定と他の課税要件規定との関係性については、法人税法132条1項と同法22条2項との関係を中心に活発な議論が展開されてきたが、所得税法においては、それほど議論されてきたわけではない。しかし、筆者は、法人税法におけるこのような競合問題が、所得税法157条と同法37条との関係においても同様に生じているとして考察を行っている。筆者は、所得税法157条は創設的規定であるとして、非同族会社に対しては適用されないとする立場をとる。また、同法157条を根拠に否認された場合には、経費の支払先法人における対応的調整が生じるが、同法37条により否認された場合には対応的調整は生じないとして、否認根拠規定の違いが納税者に及ぼす法的効果の違いを指摘する。このことからも、両規定のどちらで否認するかについて、課税庁には、できる限り客観的で統一的な判断が求められるとして、課税庁による筆者作成の「判定フロー」の利用に期待を寄せる。

 当該「判定フロー」の裁判例(裁決例)への当てはめにおいては、些か強引と感じられなくもないが、筆者の考えに沿った一貫した論理展開であり矛盾はない。筆者の主張は明快で首尾一貫しており分かりやすい。当該「判定フロー」だけではなく、その他にも筆者が作成した多くの図表を有効に活用して、主張の整理や説明を行っており、図表の一つひとつが考察の成果物の体を成している。筆者の仮説を「判定フロー」で検証するというアプローチも新鮮である。上記を総合的に判断し、租税資料館賞に値するものと評価するものである。 

論 文(PDF)