田川 功 稿「ギグワーカーの課税制度のあり方について―所得区分の違いによる税負担の公平性問題を中心として―」

田川 功 稿 (立教大学大学院 院生)
「ギグワーカーの課税制度のあり方について―所得区分の違いによる税負担の公平性問題を中心として―」

 最近の労働市場の変化の中で際立つフリーランスの増加及びプラットフォームを通じて単発の契約に基づき労務を提供するギグワーカーの増加の下で、①これらの者に帰属する所得の分類の在り方(事業所得か給与所得を中心に)、及び、②ギグワーカーがもたらす税務申告漏れ(タックスギャップの発生)の増加への対応策を検証し、最終的には筆者の考えるギグワーカーに対するあるべき課税制度を提言するという流れの論文である。

 そのため第1章では、上記2点の課題を特定するとともに、後者については、更に所得申告に慣れないギグワーカー側の事情を追加指摘している。

 その後、ギグワーカーにとって、所得分類対象となりうる給与・一時・事業・雑の所得区分についての整理を確認したうえで(第2章)、第3章では各所得区分間での認定が争点になった裁判事例での判示内容を、筆者が先行研究を参照して構築した「フレームワーク」に沿って分析・検討している(この部分が本論文85頁中の55頁を占める重要分析との位置付け)。4章5章では、所得区分以外のギグワーカーの税制上の課題について検討し、最終的には、①現行法下での所得区分のあいまいさの是正(追加立法を含む)及び②タックスギャップ縮小に向けた納税インフラの拡充によるギグワーカーの税務申告の負担軽減を中心とした提言に結び付けている。

 ギグワーカーへの課税のための所得分類については、多くの先行研究が蓄積されているが、その基礎となる代表判例の外、関連判決も詳細に渉猟している。また、これら判示内容に対し、筆者が先行研究に沿って抽出した従属性と非独立性・独立性のメルクマールによるフレームワークに沿って評価をまとめている点は、判例分析における独自性を示すものであるほか、その結果の表示方法として効果を上げている。

 またコンプライアンス確保が困難なギグワーカーに発生するタックスギャップ問題への対応を、納税インフラの各種整備構想につなげて論じている点も、政策提言として適切であると判断された。

 更に、最後の提言内容も、最近の税制改正の動向を視野に入れた多角的分析に基づくもので、多くの先行研究もよく消化していることが伺われる。

 分析結果により明らかになった「雇用契約又はこれに類する原因」という給与所得該当性判断の基準の解明が手つかずな点はやや気になるところであるが、論文全体としてみれば、最近の課題であるギグワーカーの所得課税問題を包括的に取り上げ、独自のフレームワークやフローチャートを駆使して評価・説明するなど説得力・独自性を有しており、優れた修士論文として奨励賞に値するものと評価できる。 

論 文(PDF)