稲見 匡紀 稿「消費税法における複数者間の役務の提供の内外判定―電気通信利用役務の提供の場合―」

稲見 匡紀 稿 (税理士/筑波大学大学院 院生
「消費税法における複数者間の役務の提供の内外判定―電気通信利用役務の提供の場合―」

   

 本論文は、3者以上の複数者間の役務の提供に係る内外判定の前提となる役務の提供の捉え方ないしその基礎となる解釈(誰と誰との間にどのような態様の役務の提供が行われたと解釈するのかに関する解釈)が、裁判例や課税実務で混乱し統一されていないとの問題意識に基づき、電気通信利用役務の提供、具体的には、リモートコンサルティングを題材として、その解釈の類型を整理し比較検討し、それを踏まえてこの問題の解決策の法令化を提言するものである。

 本論文の構成は、「はじめに」、「第1章 問題の所在」、「第2章 役務提供にかかる内外判定の混乱―リモートコンサルティングを題材として―」、「第3章 あるべき解釈」、「第4章 提言など」となっているが、その中心となるのは、第2章における複数者間の役務の提供に関する解釈の類型の整理、第3章における各類型の比較検討である。
 本論文は、タイトルにいう「内外判定」それ自体を検討するのではなく、その前提となる役務の提供の捉え方ないし解釈の仕方を検討するものであり、その意味で、タイトルの付け方にもう少し配慮があってもよかったのではないかと思われるものの、先行研究の少ないテーマについて、素朴ではあるが明確な問題意識に基づき、幅広く文献資料を渉猟し駆使し、よく考え抜いた検討を加えている。

 本論文は複数者間の役務の提供に関する解釈の主な類型を、①同一役務連鎖型解釈、②着ぐるみ型解釈及び③複線型解釈という3つの類型に整理して検討しているが、それらの類型は、ネーミングが独創的であるだけでなく、内容的にみても精緻な思索に基づく「労作」であり、論旨を明快に展開するための道具概念として有効に機能している。3つの類型に関する妥当性及び問題点の指摘・分析に基づく比較検討も、(例えば43頁において、複数の役務の提供を合理的に区分することにつき検討するに当たって、土地建物の一括譲渡に関する消費税法上の取扱いを参照している点にみられるように)消費税法に関する幅広い正確な理解に裏打ちされたものであり、そこから、しかも私法の分野まで検討の幅を広げながら、導き出される①同一役務連鎖型解釈を支持する結論も、説得力をもつものである。第3章第4節においてEUをはじめとする諸外国の事例をも参照して行った比較法的検討も、外国法令の邦訳を「仮訳」と表記する点は若干気になるものの、本論文の検討を補足するものとして評価することができる。

 以上の検討に基づき、冒頭の問題意識の中で述べられている混乱に伴う納税者のコンプライアンスコストを縮減するためにも、この問題の立法的解決が望ましいとして提言した消費税法の具体的な改正提案も、傾聴に値するものである。

 要するに、全体としてみれば、本論文はテーマの斬新さ及び実務分野における有用性が認められものであり、研究論文として労作・意欲作として高く評価することができる。 

論 文(PDF)