畠中 貴幸 稿「贈与税の連帯納付義務の問題―承継した相続人の債務控除を中心として―」

畠中 貴幸 稿 (新潟経営大学経営情報学部 助教/新潟大学大学院 院生
「贈与税の連帯納付義務の問題―承継した相続人の債務控除を中心として―」

 

 本論文は、被相続人が生前贈与を行い、それにより発生した贈与税の連帯納付義務を被相続人が履行しないまま亡くなった場合で、相続発生後に、課税当局から承継した連帯納付義務の履行の求めに応じ相続人が当該贈与税を納付した場合に、当該相続人にとって、当該連帯納付税額が、相続税法13条に定める相続財産に係る債務控除の対象となるのかについて、関係する大阪高裁判決を批判的に検証して、筆者の同条解釈に係る見解を述べた論文である。

 第1章では、法34条が相続・遺贈の場合における相続人間における相続税の連帯納付義務を定めるとともに、贈与税については、贈与者に対し納税義務者(受贈者)との間での連帯納付義務を定めるにとどまっていること、更に、法13条では相続財産に係る債務控除の対象債務は、相続開始時点で現に存するものに限られると定める現行法を確認している。そのうえで、第2章では、贈与税の連帯納付義務を承継した相続人において課税価格計算上債務控除が認められた例外的な大阪高裁判決を材料として、補充性を持たないと解される贈与税の連帯納付義務(連帯保証と類似)の現行法下での2つの課題(課税当局からの徴収権の濫用の可能性、相続人にとっての債務控除の不可能性)を取りまとめて提示している。3章及び4章では、上記2つの課題に取り組んだ個別判例・学説を検証しているが、筆者は一貫して、相続税の連帯納付義務に係る13条での債務控除の要件は、贈与税の連帯納税義務にも及ばざるを得ないとの立場でコメントを行っており、求償権の行使可能性の検討を迂回して事前の合意を根拠に債務控除を例外的に認めた判例の立場を、解釈論として無理があると指摘し、解決のためには、施行令の改正及び更正の請求を認める方向での立法的処方箋が必要と提案している。 

 資産承継税制の拡充など、富裕者の租税計画の中で贈与税のへの関心も高まってきた中で、相続税に係る連帯納付義務と贈与税に係る連帯納付義務の相続税法上の規定ぶりの差異及び当該納付額について相続人の相続財産からの債務控除可能性に着目した本論文は、時期を得たものであり、分析の視点に独自性も認められる。筆者は少ない判例から問題点を抽出して、自説(立法論)の合理性の根拠を深掘りしている。

 相続後に納付した連帯納税額についての相続財産からの債務控除の要件(法13条の「相続開始の際現に存するもの」)を踏まえて、相続税・贈与税の連帯納付義務を民法上の連帯保証債務(偶発債務)と同視するところから出発する判例・通説の立場をやむを得ないものとしつつ、筆者は、連帯納付義務を生み出す贈与の受贈者には、親族のみならず相続人に知られていない第3者も含まれうること(この場合には連帯保証債務に見られる附従性が希薄)、そのために求償権を斟酌した弾力的な対応が必要となる実務上の状況を明らかにしている。すなわち、相続開始後の後発事情に関して保証債務(偶発債務)に比べて偶発性が希薄であるとの指摘が、そのエッセンスとなっている。論旨から見て、法13条の債務控除に公租公課の包括的規定ではなく、相続税法上の連帯納付義務に係る納付を明文化し、相続後の事由により控除可能とする立法策、及び32条で連帯納付義務の履行を更正の請求の特例の一事由に加えるとの論旨の運びは説得力を有している。  

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