吉田 渉 稿「法人税法132条の2の不当性要件に関する考察」

吉田 渉 稿 (一橋大学大学院 院生/東京国税不服審判所 国税審判官)
「法人税法132条の2の不当性要件に関する考察」

 

 本論文は、法人税法132条の2の不当性要件の判断要素として、ヤフー事件最高裁判決が示した「租税回避の意図」の認定・当てはめの過程に焦点を当てて考察したものである。

 第1章の問題意識に続き、第2章では、ヤフー事件最高裁判決が法人税法132条の2の不当性要件の判断要素として「租税回避の意図」を加えたことを取り上げ、「制度濫用基準と主観的要素」と「期待される機能と懸念」について論じる。第3章では、ヤフー事件・IDCF事件、TPR事件の後のPGM事件を取り上げて、内部文書等に大きく依拠した「租税回避の意図」の認定が行われていることを指摘した上で、その要因について複数の分析を行う。第4章では、アメリカ法における経済的実質主義、段階取引原理、歳入法典269条を参照して、日本法との比較研究を行い、それらを踏まえて、第5章においてまとめと提言を行う。

 法人税法で租税回避を扱う論稿は多いが、本論文は問題意識がはっきりしており、それに対する結論としての提言も妥当である。必要な文献は一通り網羅しており、丁寧に読み込んでいることもわかる。取り上げた裁判例もこの研究には必須のものである。事実に基づいて論述しており、論理が破綻していることもない。どれをとっても水準以上の論文であることは間違いない。

 具体的には、「租税回避の意図」が「制度の濫用」概念(旧大和銀行外税控除事件最判)に由来することを跡づけた上で、ヤフー事件最判およびIDCF事件最判では内部文書に依拠した認定になっていることを指摘し、その要因を詳細な分析により明らかにした点が優れている。米国法と日本法の共時的分析と共に、この領域における研究を深化させたといえよう。また、納税者と課税庁・裁判所との間に情報・証拠の偏在が生じることを指摘し、その解決策を提言している点も興味深い。

 実務にも携わっている筆者(弁護士)ならでは視点を交えながら、多くの学説と判例を精緻に整理・検討していく論の進め方は説得力があり、また、そこから導出された結論も納得できるものである。

 欲をいれば、「租税回避の意図」の意義と課題について先に検討した上で(第2章)、法132条の2の不当性要件が争われた裁判例・裁決例における「租税回避の意図」の具体的判断方法を分析・検討する(第3章)という手法であるが、逆の順番の方が説得的であったかもしれない。意義を先に定めるのは、発想を固定させ、その後の検討の範囲を狭めてしまうことに繋がるおそれがある。また、議論の展開にやや重複感があるものの、それも筆者の堅実な研究姿勢の表れだといえる。総合的に判断し、十分に受賞に値する研究だといえる。 

論 文(PDF)