飯嶋 亮 稿「権利発生の原因事実について争われた場合の所得の年度帰属―紛争解決前の供託時点における管理支配基準の適用を中心として―」

飯嶋 亮 稿 (青山学院大学大学院 院生)
「権利発生の原因事実について争われた場合の所得の年度帰属―紛争解決前の供託時点における管理支配基準の適用を中心として―」

 

 本論文は、東京高判平成29年7月6日税資267号順号13032を題材に、権利発生の原因事実が争われた場合における所得の権利確定時期について論じている。

 全6章からなり、前掲東京高判に含まれる問題点を指摘(1章)した上で、権利確定主義の概要、および過去の事例において紛争解決時に権利が確定すると判断されたものと、そうではないものがあることから、それぞれの取扱いにおける権利の特質や事実関係を整理している(2、3章)。次いで、管理支配基準が適用された事例を挙げ、管理支配基準の位置づけ、権利確定主義との関係を明らかにし(4章)、さらに、権利発生の原因事実について争われた所得について、それが供託された時点における管理支配基準の適用の可否について考察している(5章)。最後に、前掲東京高判における判断について再検討を試みている。筆者は紛争解決前に退職手当が供託された事実に着目し、本件退職手当の収入は供託された時点で受け取ることができるため、管理支配基準の適用により供託時の所得になると結論づけている(6章)。

 権利確定主義と管理支配基準について学説および判例を渉猟し、供託の場面での管理支配基準の適用関係に整合性ある説明を提示している。論理的で文章も読みやすい、労作といえよう。また、仮に筆者のアプローチを採ったとしても、その結論は裁判所の判断と同じであるが、事案によっては還付請求の余地が生まれる可能性を指摘するなど、詳細な検討をしているところも評価できる。

 学説や判例を精緻に分析していること(実証性)、一つひとつ順序良く概念を整理している構成の手堅さ(論理性)は、租税資料館奨励賞受賞の水準を満たしていると評価できる。 

論 文(PDF)