石倉 ゆうみ 稿「遺産の再分割に係る贈与税課税の妥当性の検証―遺産分割協議の合意解除による再分割を中心に―」

石倉 ゆうみ 稿 (大阪経済大学大学院 院生)
「遺産の再分割に係る贈与税課税の妥当性の検証―遺産分割協議の合意解除による再分割を中心に―」

 

 本論文は、遺産の再分割に係る贈与税課税の妥当性を、遺産分割協議の合意解除による場合を中心に検証を行うものである。

 第1章では、民法上の遺産分割の合意解除及び再分割の法的性質とその効力を検討し、遺産分割には贈与的要素があることを確認する。また、民法における合意解除による遺産の再分割は、贈与ではなく相続による遺産の分割であるとする。
 第2章では、遺産の再分割に係る贈与税課税の正当性を検討する。そして、民法の遡及効は、民法を当然の前提としている相続税法の課税関係に及ぶとの理解に至る。相続税法が民法と異なる取扱いをするのであれば法的根拠を明示する必要があるとし、合意解除による遺産の再分割に係る贈与税課税に正当性がないと結論付ける。
 第3章では、まず、東京地裁平成21年2月27日判決、大阪高裁平成27年3月6日判決を取りあげて、租税法上も遺産分割協議の合意解除及び再分割は認められるとする。
 終章では、合意解除が課税関係に影響を及ぼす判断基準である「やむを得ない事情」については、贈与と判断された場合、納税者は課税面で著しく不利となること等から、仮装行為で真実の法形式が贈与であると認められる場合に限り贈与と判断されるべきであるとする。

 本論文は、遺産分割協議の合意解除による再分割に係る贈与税課税の妥当性を検討するものであり、その検討の前提作業として、遺産分割協議、その合意解除及び再分割の法的性質・効力に関する民法上の学説・判例の議論を丹念に整理・検討した上で、再分割に係る課税関係及び贈与税課税の根拠を豊富な先行研究のリサーチ・分析に基づき検討し、併せて裁判例の分析を通じて裁判理論を明らかにし、贈与税課税による過重な税負担の発生原因と解決策を検討した結果、その解決策として遺産取得税方式による相続税・贈与税の一体化による一生累積課税という立法論的提案を行っているが、周到な論文構想に基づく全体の論旨の明快さと、先行研究の入念な検討に基づく緻密な論理の積み上げの点で、高く評価できるものである。

 なお、4.1.2で「遺産の再分割の課税上の効力」を検討する際に取り上げている平成12年東京高判では、遺産分割協議の合意解除が認められず再分割が贈与であると判断されたにもかかわらず、この判決を合意解除による遺産の再分割に伴う過重な税負担の問題に関して検討したのはなぜか、この問題を解決するために相続税・贈与税の一体化による一生累積課税を提案するのは比例原則の観点から妥当であるか等についての説明があれば、より説得的な論文として仕上がっていたであろう。また、通達の扱いを批判する根拠として、「過重な税負担が強いられる」ことを強調しすぎることもやや気に掛かる。しかし、これらは本論文の今後の課題というべきものである。

 文献の参照、裁判例の考察も大学院生として真面目に取り組んでいることが認められる。問題意識がはっきりしていて、論理も明快でブレがなく、現段階でも研究論文として十分に優れており受賞に値すると判断した。 

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