田代 歩 著『消費税改革の評価―効率性と公平性の経済分析―』

田代 歩 著 (札幌学院大学経済経営学部経済学科 准教授)
『消費税改革の評価―効率性と公平性の経済分析―』 (2023年11月 関西学院大学出版会)

 本書は、あらゆる税についてまわる公平性と効率性の「緊張関係」の視点から、消費税改革の効果を経済学の標準的分析ツールを用いて実証的に明らかにする。本書は「序」と終章を除き、4つの章および1つの補論から構成されている。

 第1章は、世代会計の分析枠組みで、年齢階級別に生涯純負担を計測し、4つの仮想条件下で将来の消費税改革がそれらに与える影響をシミュレートする。その結果、消費税率の引き上げは現在世代の生涯純負担を増加させ将来世代のそれを減少させること、現在世代と将来世代の世代間不均衡を解消し、年齢階級別格差を解消するには、税率を約25%まで引き上げる必要性がある等とする。

 第2章は所得階級別の家計消費において、軽減税率が社会的厚生に与える影響をシミュレーションにより分析する。結果は前提とする社会的厚生関数によって異なり、効用水準に基づく社会的厚生関数では、不平等回避度が小さい状況では軽減税率導入が望ましいとする。一方、総消費支出に基づく社会的厚生関数では、税収規模や不平等回避度にかかわらず、一律増税の方が望ましい。よって、軽減税率導入の是非は不平等回避度の大きさによるとする。

 第3章も、軽減税率が社会的厚生に与える影響を分析するが、年齢階級別の家計消費において、消費者のライフステージによって消費行動が変化する「年齢効果」を考慮する。その結果、社会的厚生関数の特定や、不平等回避度や税収規模にかかわらず、軽減税率の導入が望ましいとの示唆を得る。

 第4章もまた、年齢階級別の家計消費を取り上げ、税収中立の限界的税制改革が社会構成や低所得者指標に与える影響を分析する。その結果、不平等回避度を引き上げて総消費水準が低い年齢階級に対する公平性を考慮すれば、限界コストは「交通通信」が最も高く、「教育」が最も低くなる、「食料」を減税する場合、「家具家事用品」「その他の消費支出」の増税と合わせることで、社会的厚生や低所得者指標が最も改善するとする。

 本書のいずれの章・補論も、①先行研究をしっかりと踏まえていること、②実証モデルが標準的な経済理論に基礎をおいていること、③利用するデータも一般性の高いものであること、④シミュレーションにおけるパラメータの選択に偏りはなく堅実であること等から、良質の実証分析と言える。そこで導かれた結論も学術的にも興味深い。こうした結論はもとより、さまざまな前提・仮説から導かれるため、直ちに政策に取り入れられるべき性格は有しないが、今後の消費税改革を立案するうえで大いに参考になるか、もしくはそうした直接的な政策含意を求める後続研究の道標のひとつとなるに違いない。

 このように本書は秀作と言えるが、あえて一つ難をあげれば、補論の本書における位置づけである。そこでは、受益と負担の地域別格差が人口移動に与える影響を重回帰分析の手法で検証し、2009年度と2014年度の両方において、人口の転入を増加させる要因であり、都市部への人口流入をもたらしたとするが、これは消費税改革と直接的な関係はない。このため、本書においてやや「浮いた」存在となっている。分析そのものに重大な問題があるわけではないため、本書の価値を大きく減ずるものではないが、このことは指摘しておきたい。