鶴田 廣巳 著『グローバル時代の法人課税と金融課税』
鶴田 廣巳 著 (関西大学 名誉教授)
『グローバル時代の法人課税と金融課税』 (2023年12月 ㈱有斐閣)
本書は、法人課税と金融課税(金融所得、金融資産、金融取引への課税)を主たる対象として、国際課税の側面から理論的・実証的な分析を加える著作である。本書は、2004年~2021年にかけて著者が公刊した学術論文を中心にモノグラフとして再構成した著作である。第1部では、法人課税と国際課税のインテグレーションについて、イギリス(第1章)及びドイツ(第2章)の法人税改革の評価と展望を提示する。続けて、国際的インテグレーションの理念型(第3章)、法人課税の諸類型(第4章)、国際租税調整(第5章)、法人課税の国際的動向(第6章)が展開される。第2部では金融への国際課税の観点から、投資ファンドと国際課税(第7章)、二元的所得税(第8章)、トービン税と金融取引税(第9章)、富裕税(第10章)が検討される。第3部では情報交換と国際租税協調について、マーリーズ・レビュー(第11章)、租税情報の国際的交換と国際協調(第12章)、租税国家・世界租税機構(第13章)が展開される。また、BEPSプロジェクトにおける国別報告書(補章)も収録している。
国際課税の分野で、法学者によるものは国内外ともに多くの蓄積が存在するが、経済学者によるモノグラフは法学者と比較すると少ない状況にある。著者がBEPSプロジェクト以前から国際課税と法人課税・金融課税の交錯領域について蓄積してきた研究をモノグラフの形で編纂した点は、学術的に意義がある。一冊の著書として広範な範囲となっているものの、適正な法人課税と公正・公平な課税を実現するためのあるべき税制という著者の問題意識は、全体を通じて一貫して構成されている。また、資料・文献の丹念な渉猟に裏付けられた分析が展開されており、後の世の研究者にとって世界的な議論動向とその課題を理解する上で有益なだけでなく、本テーマに関する先行研究へのアクセスを容易にする面で資料的な価値があるといえる。グローバル時代における法人税制と金融所得課税の主要な論点を論じる研究書として、整理された内容・構成と評価できる。
以上から、本論文は租税資料館賞(著書)に値すると評価できる。