池上 竜矢 稿「所得税法における未経過固定資産税相当額の課税問題―買主側の議論を中心に―」
池上 竜矢 稿 (立命館大学大学院 院生)
「所得税法における未経過固定資産税相当額の課税問題―買主側の議論を中心に―」
本論文は、不動産実務において、年度の途中で固定資産の売買がある場合に買主と売主との間で授受される固定資産税の清算金(「未経過固定資産税相当額」)についての所得税法上の取扱いを巡る争点について、買主の支払った未経過固定資産税相当額に焦点を当てて、所得税法の解釈の方向性を論じるものである。
まず、固定資産税の概要、不動産実務における清算の慣行及び未経過固定資産税相当額の所得税法上の課題を整理し(第1章)、買主側及び売主側の議論をまとめ(第2、3章)、米国での不動産売買における財産税の清算金の取扱いの議論を論じて(第4章)、我が国と米国の議論の比較を試みる(第5章)。
結論としては、買主が支払った未経過固定資産税相当額は、付随費用として資産の取得価額に算入されるものであるが、実質的には固定資産税と同様の費用性が認められ、また、その年の所有期間に関連する支出でもあることから、業務用資産に係るものは、その年の必要経費に算入することもできるという取扱いが望ましいという見解を導いている。
先行研究を渉猟した上で、売主側の議論や学説及び米国の不動産税に関する議論を踏まえて、所得税法上の解釈の方向性を導く論旨は明快であり、理論構成についても筆者なりの論証の工夫が見られる。
特に米国の不動産税は、シャウプ勧告を契機に創設された我が国の固定資産税の原型と位置付けられており、米国の不動産税に関する議論に示唆を求める姿勢は説得力が認められる。米国の不動産税の1954年改正法前の判例、改正に至った背景、現在の課税上の取扱い等を立体的に考察している点は、比較法研究の手法としても基本に忠実と評価されるところである。米国税法における相当額を買主に課された固定資産税として取り扱う旨の規定は、我が国の立法上の可能な選択肢の一つとしての示唆を与えるものであり、本研究の成果の一つと言える。
なお、業務用資産に係る未経過固定資産税相当額について、当該資産の取得価額に算入するのではなく、支出年度の必要経費に算入する取扱いが望ましいとしている点については、費用収益対応の原則との関係も含めた論証を更に充実したものとすることにより、研究水準がより高まったのではないかと思われるものの、論文全体の評価を損なうものではない。
実務的な問題意識を背景として、未だ見解が分かれている未経過固定資産税相当額の所得税法上の取扱いの方向性を論理的に考察しており、本論文を契機として、今後の更なる研究が期待される研究論文と言える。
それらを総合的に判断して、租税資料館奨励賞にふさわしい論文であると評価する。